業務用空調設備や冷凍冷蔵設備を管理している企業にとって、冷媒の漏えいは避けて通れない重要な課題です。冷媒漏えいは機器の性能低下やコスト増加を招くだけでなく、地球環境への深刻な影響や法的な義務違反にもつながる可能性があります。
適切な対応を怠り、法令に違反した場合は、点検や漏えい対処、記録保存の義務違反に対して50万円以下の罰金が科せられます。また、罰金だけでなく、行政処分による企業名の公表によって社会的な信用を失うリスクも生じかねません。
本記事では、冷媒漏えいの基本的な仕組みから具体的な影響、原因と対策方法、そして漏えいが発生した際の適切な対応まで詳しく解説します。
冷媒ガスの漏えいとは
冷媒の漏えいは、設備運用において避けることのできない現象であり、適切な理解と対策が必要です。
ここでは、冷媒の基本的な性質から、漏えいによって生じる具体的な影響まで、企業の管理者が押さえておくべき重要なポイントを詳しく説明していきます。
そもそも冷媒とはどんな物質?
冷媒とは、熱を移動させるために用いられる物質の総称です。空調設備や冷凍冷蔵設備の心臓部ともいえる役割を担っています。
例えば空調設備なら、室内機と室外機のあいだを冷媒が循環し、室内外の熱を運びます。この熱移動のメカニズムにより、夏は室内の熱を外に運び出し、冬は外の熱を室内に取り込んで、快適な環境を実現しているのです。
そして、冷媒として用いられる物質の大半を占めているのが「フロン類」という化学物質です。フロン類は、クロロフルオロカーボン(CFC)・ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)・ハイドロフルオロカーボン(HFC)の3つを総称した呼び名で、科学的な安定性や毒性がないことなどを理由に、空調設備や冷凍冷蔵設備の冷媒用途以外にも、断熱材やほこり飛ばしスプレーなどのさまざまな用途に使用されています。
一方で、フロン類はオゾン層の破壊や地球温暖化の原因となる物質でもあるため、適切な管理が欠かせません。
冷媒(またはフロン類)が漏れるとどうなる?
もしも冷媒が漏れてしまうと、機器の性能が落ち、電気代の増加や故障を引き起こす原因になります。冷媒が不足すると、設定温度に到達するまでに時間がかかったり、まったく冷えなくなることもあります。
商業施設の空調で冷媒が漏れて空調の効きが悪くなれば、お客さんが不快感を感じ滞在時間が短くなるかもしれません。また、冷凍冷蔵設備で冷媒が漏れれば、温度管理に影響が出て食品が傷むことによる廃棄といった損害にもつながります。
また、冷媒に多く使われるフロン類は、オゾン層の破壊や、地球温暖化といった環境問題の原因でもあります。オゾン層は有害な紫外線を吸収する役割を担っているため、破壊が進むと地上へ到達する紫外線が増加し、人体や生態系に悪影響をおよぼします。
さらに、フロン類は地球温暖化の要因とされる温室効果ガスの一種でもあります。本来、温室効果ガスは地球の適温を保つうえで欠かせない存在ですが、その量が増えると大気中に閉じ込められる熱の量が増え、地球全体の気温が上昇します(=地球温暖化)。
日本における温室効果ガス排出量の割合のうち(※)、約85%を占めているのが二酸化炭素(CO2)によるもので、フロンガスにおいては約4%と、一見すると影響は少ないように思えるかもしれません。
しかしながら、フロンガスは二酸化炭素(CO2)の数百倍から1万倍以上の温室効果があるとされており、わずかな漏えいでも地球温暖化に与える影響は極めて大きいのです。
※出典元:日本の温室効果ガス排出量(2022年度)|資源エネルギー庁
冷媒が漏えいする原因
- 施工不良
- 機器の経年劣化・振動
- 機器の不適切な使用
それぞれ見ていきましょう。
施工不良
施工不良によって冷媒が漏えいすることがあります。
例えば、空調の室内機と室外機をつなぐ配管の接続がうまくいっていないと、そこから冷媒が漏れてしまいます。配管の接続部分は冷媒が循環する重要な箇所であり、わずかな施工ミスでも漏えいの原因となってしまうのです。
また、ナットの締め付け不足や、締め付けすぎによる配管の破損といったことが原因となることもあります。
機器の経年劣化・振動
機器の経年劣化によるサビやキズ、亀裂などが冷媒の漏えいにつながることもあります。
特に金属部分の腐食は時間の経過とともに進行し、最終的に配管や接続部分に穴が開いてしまう場合があります。また、コンプレッサの振動や大型車両の通行による振動で接続部が緩み、そこから漏えいが発生するケースもあるでしょう。
機器の不適切な使用
以下のような不適切な使用は故障を引き起こし、冷媒漏えいの原因となります。
- 機器の更新時期を超えて使用する
- 性能を超えた使い方をする(例:ショーケースの性能を超えた商品の陳列)
- 正常な動作を妨げる環境に設置する
- 不具合を無視して使用を続ける
冷媒の漏えいを防ぐ方法
冷媒の漏えいを防ぐためには、定期的な点検や、適切な設置環境の確保といった、予防的なアプローチが非常に重要です。
定期的な点検を実施する
冷媒の漏えいは、定期的な点検によって大きく削減できます。
例えば、点検時に冷媒漏れの兆候を早期に発見し修理できれば、放置した場合と比べて漏えい量は大きく変わってきます。早期発見により、大規模な修理や機器の交換を避けることができ、結果的にコスト削減にもつながるでしょう。
そもそも、フロン類を冷媒として使用した業務用空調設備や冷凍冷蔵設備は「フロン排出抑制法」により、3ヶ月に一度の簡易点検が義務付けられています。
点検項目としては以下のようなものがあります。
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管理する第一種特定製品の種類 |
点検項目 |
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エアコン |
異常音、振動、外観の損傷、摩耗、腐食、さび、その他の劣化、油漏れ・にじみ、熱交換器への霜の付着の有無 |
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冷蔵・冷凍機器 |
エアコンの検査事項に加え、冷蔵または冷凍の用に供されている倉庫や陳列棚などの温度 |
これらの点検は、専門業者へ委託することはもちろん、機器の管理者自らが行うことも可能ですが、定められた基準に適合した「常時監視システム」の導入もおすすめです。常時監視システムを導入することで、管理者による目視点検を省略できます。
機器を適切な場所へ設置する
空調設備の設置環境の選択は、機器の寿命や性能維持に直接的な影響を与えます。とくに室外機は、周囲の環境によって冷媒漏えいのリスクが左右されます。
設置のポイントは以下のとおりです。
- 振動による接続部の緩みを防ぐために、大型トラックの往来が激しい道路などの大きな振動源がある場所へは設置しない
- 故障を防ぐために、機器ごとに決められた設置条件を守る
- 漏えいの早期発見やメンテナンスを容易にするため、点検が難しい場所に設置しない(例:ビルの隙間など)
なお、フロン類を冷媒として使用し、業務用として製造・販売された空調設備・冷凍冷蔵設備については、その機器を所有する管理者に対して、適切な設置と使用環境の維持・確保が義務付けられています(フロン排出抑制法)。
万が一冷媒が漏れてしまったら
万が一、冷媒の漏えいが発生した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。法的な義務を遵守しながら、環境への影響を最小限に抑えるための対策を講じることが重要です。
ここでは、漏えい発生時に取るべき具体的な手順について詳しく解説します。
速やかに漏えい箇所を特定して修理を行う
点検によって冷媒の漏えいが判明した際には、速やかに漏えい箇所を特定し、修理しなければなりません。これには専門的な知識と技術が必要となるため、専門業者に依頼してください。
また、フロン類を冷媒として使用した業務用空調設備や冷凍冷蔵設備においては、修理せずに冷媒を充てんすることをフロン排出抑制法によって原則として禁止としています。違反した場合には50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

加えて、点検・修理・冷媒再充てんの実施記録を適切に保管することも義務付けられています。
規定量を超えた場合は国へ報告する
フロン類を冷媒として使用した業務用空調設備や冷凍冷蔵設備は、1年度あたりの漏えい量が「1,000tCO2以上」となった場合、当該事業所を管轄する主管大臣に報告する義務があります。
漏えい量の算定は、事業者単位やフランチャイズチェーン単位で行われますが、その中の特定の事業所だけで1,000tCO2以上の漏えいが確認された場合には、併せて報告が必要です。報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした際には、10万円以下の過料が科される可能性があります。
なお、冷媒漏えい量は直接機器から測定できないため、充塡回収業者が発行する充塡証明書および回収証明書をもとに算出しましょう。
