フロン排出抑制法は、地球温暖化防止を目的とした法律です。これにより、業務用エアコンや冷凍・冷蔵機器を所有する企業には法定点検の義務が課されています。
この記事では、フロン排出抑制法によって定められている「点検」と点検による漏えい発見時の対応について詳しく解説します。
フロン排出抑制法の概要については以下の記事をご確認ください。
フロン排出抑制法の簡易点検・定期点検に関する概要
フロン排出抑制法における点検の義務は、対象機器の規模に応じて段階的に設定されています。
フロン排出抑制法では、第一種特定製品を所有するすべての管理者に対して「簡易点検」の実施を義務付けています。また、一定規模以上の第一種特定製品を所有する管理者は、「簡易点検」に加えて「定期点検」も実施しなければなりません。
これらの点検を怠った場合、50万円以下の罰金が課される可能性があるほか、社名公表により社会的な信用を棄損するリスクがあるため注意が必要です。
ここでは、簡易点検と定期点検のどちらにも共通する以下4つについて解説します。
- 管理者の定義
- 第一種特定製品の対象
- 抜き打ち立入検査の実施
- 点検による漏えい確認時の対応
管理者の定義
フロン排出抑制法における管理者の定義は、原則として第一種特定製品を所有する者とされています。
具体的には、機器の点検や修理の依頼、整備者への指示、点検・修理に要する費用の判断を行える立場にある者が該当します。法人が機器を所有している場合は、代表取締役などの個人ではなく、法人そのものが管理者です。
ただし、以下のようなケースでは、管理者の扱いが異なる場合があります。
ケース |
管理者 |
機器をリース・レンタルしている場合 |
契約による(※) |
分割払いで購入した場合(割賦販売) |
売買契約と同様と見なされるため、機器の所有者が管理者となる場合が多い |
テナントスペースにある機器 |
契約による(※) |
機器を共同所有している場合 |
話し合い等で決定する |
※例えば、契約において保守・修繕の責務が所有者に指定されている場合には、所有者が管理者となる
第一種特定製品の対象
第一種特定製品とは、フロン排出抑制法において定められた、点検等の義務が課せられる機器のことを指します。
対象となるのは、「エアコンディショナー」および「冷蔵・冷凍機器(冷蔵または冷凍機能を有する自動販売機を含む)」のうち、業務用として販売されており、なおかつ冷媒としてフロン類が充てんされている機器です。
具体的な第一種特定製品の種類は以下のとおりです。
■設置が想定される場所別の第一種特定製品の例
引用:https://www.env.go.jp/content/900448653.pdf
抜き打ち立入検査の実施
フロン排出抑制法に基づき、第一種特定製品の点検等が適切に行われているかを確認するため、行政による抜き打ちの立入検査が実施されることがあります。
立入検査で確認される主な項目は、以下のとおりです。
- 点検記録簿をもとに規定事項が正しく記載されているか
- 点検が定められた頻度・方法で行われているか
- 漏えいが確認された際に適切な対応が取られているか
検査の結果、法令の履行状況が著しく不十分と判断されれば、勧告、公表、命令等の措置が取られ、それらの命令に従わない場合には罰則の対象となります。
実際に令和4年度には、第一種特定製品管理者に対して1,081件の立入検査と272件の任意実地調査が実施され、196件で指導・助言等の対応が行われています。
※出典:https://www.env.go.jp/press/press_02692.html
点検による漏えい確認時の対応
フロン類の漏えいを確認したら、原則として修理を実施するまではフロン類を充てんしてはいけません。ただし、漏えい箇所の特定や修理の実施が著しく困難な場所にある場合や、人の健康被害を防ぐため等の応急的な充てんが必要な場合は、例外的に修理前の充てんが認められています。
修理の対応ができなかった場合には、その理由と実施予定について点検記録簿に記載する必要があります。また、フロン類の漏えい量が1,000t‐CO2以上の場合は、毎年度7月末日までに事業所管大臣に対して報告する義務も定められています。
フロン排出抑制法の「簡易点検」について
比較的簡易な方法で実施できるため、特別な資格は必要ありません。とはいえ、適切な方法で実施することが重要です。
ここでは、簡易点検の実施者、具体的な点検項目・方法、頻度、記録保存について詳しく解説します。
「点検項目・方法」について
簡易点検で定められている検査事項は下表のとおりです。
管理する第一種特定製品の種類 |
点検項目 |
エアコンディショナー |
異常音、振動、外観の損傷、摩耗、腐食、さび、その他の劣化、油漏れ・にじみ、熱交換器への霜の付着の有無 |
冷蔵・冷凍機器 |
エアコンディショナーの検査事項に加え、冷蔵または冷凍の用に供されている倉庫や陳列棚などの温度 |
エアコンディショナーを例に挙げて、具体的にどこを見れば良いのかを紹介します。
異常音 |
⇨いつもと異なる振動や音がしないかを確認してください。 |
外観の損傷、摩耗、腐食、さび、その他の劣化 |
|
油漏れ・にじみ |
⇨室外機や熱交換器、その周辺に油の漏れ・にじみがないかを確認してください。 |
熱交換器への霜の付着の有無 |
⇨室内機のグリルを外し、熱交換器に霜が付着していないか確認してください。 |
画像引用元:https://www.env.go.jp/earth/airconditioner.pdf
いずれも、安全に目視で確認できる範囲で点検すれば問題ありません。
例えば、防護柵のない屋根の上に室外機が設置されている場合や、長い脚立を使用しなければ点検できないなどの点検が困難な場合には、安全に点検できる箇所を重点的に点検すれば良いとされています。
また、2022年8月22日の改正により、目視点検の代替点検方法として「常時監視システム」の利用も認められています。定められた基準に適合した「常時監視システム」を用いる場合に限り、目視による簡易点検を省くことが可能です。
■目視点検の代替として認められる常時監視システムの基準
「点検頻度」について
簡易点検の頻度は3ヶ月に1回以上とされています。稼働していない機器であっても、安全上の観点から点検の実施が推奨されています。
ただし、整備等でフロン類が全量回収された状態であれば簡易点検を実施しなくても問題ありません。また、定期点検の実施をもって、簡易点検を兼ねることも可能です。
点検記録簿の記録事項・保管の仕方
簡易点検の実施で記録しなければならない内容は次のとおりです。
1.管理者の氏名または名称
2.第一種特定製品の所在等
3.フロンの初期充てん量と、その種類
4.簡易点検の実施有無
5.簡易点検の実施日
ただし、常時監視システムを用いる場合は[1]~[3]の基礎情報に加え、利用期間のみ記載すればよいとされています。その場合、「簡易点検の実施有無」と「簡易点検の実施日」の記録義務は省略が可能です。
記録する様式には定めがなく、記録事項を満たせば問題ありません。簡易点検の点検記録簿の保管の仕方については、以下のとおり定められています。
- 紙または電磁的記録で保存すること
- 機器を破棄してから3年間保管すること
- 第一種特定製品整備者または第一種フロン類充てん回収業者から、点検記録簿の求めがあった際に速やかに開示できる場所に保存すること
- 法第87条におけるフロン類以外の冷媒が充てんされている機器の整備等を行う際には、整備者等に対して現に充てんされている冷媒の説明または分かりやすく表示すること
- 機器を他者に売却する場合は、当該機器の点検記録簿または写しを引き渡すこと(無償で譲渡する場合:引き渡すことが望ましい)
簡易点検は資格要件がなく、誰でも実施できますが、実施者は記録事項の作成や適切な管理方法の遵守が求められます。
法令違反の責任自体は「管理者」に問われますが、実施者の記録漏れや保管ミスが管理者の責任問題に影響するため、正確な点検記録・保管が重要で手間がかかります。
「罰則」について
簡易点検は法定点検義務として位置づけられていますが、違反した際に罰則が科せられるかは、圧縮機に用いられる電動機または内燃機関の定格出力の規模によります。
7.5kW以上の第一種特定製品を1台以上所有する管理者に対しては、基準に照らして著しく不十分であると判断されると、管轄の都道府県知事による勧告→公表→命令等の措置を経て、従わない場合に50万円以下の罰則が科されます。
7.5kW以下の機器については、管轄の都道府県知事の指導・助言を受けることがあります。
参考動画:フロン排出抑制法「よく分かる!簡易点検」| 東京都 Tokyo Metropolitan Government
フロン排出抑制法の「定期点検」について
フロン排出抑制法では、第一種特定製品のうち、圧縮機に用いられる電動機や内燃機関の定格出力が7.5kW以上の機器を所有する管理者に対して、簡易点検に加えて、より専門的な「定期点検」の実施も義務付けています。
それぞれの点検は別途に行う必要がありますが、実施のタイミングが重なる場合には、簡易点検を定期点検に兼ねることも認められています。
点検実施者」について
簡易点検と違い、定期点検は十分な知見を有する者が行う、または立ち会う必要があります。必要とされる知見は下表のとおりです。
引用:https://www.env.go.jp/content/900448653.pdf
これらの知識を有する者としては、以下が挙げられます。社内か社外かは問われません。
- 冷媒フロン類取扱技術者
- 資格保有者(冷凍空調技士(日本冷凍空調学会)など)
- 冷凍空調機器の整備・点検に3年以上携わった技術者であり、なおかつ点検に必要となる知識等の習得を伴う講習を受講した者
パナソニックでは、空調機器の保守メンテナンスおよびスポット対応サービスを提供しており、簡易点検・定期点検の両方に対応が可能です。フロン排出抑制法や空調に関する専門知識・技術を持つ技術者が対応するため、安心してお任せいただけます。
万が一、フロン類の漏えいなどの故障が見つかった場合でも、迅速かつ適切な修理対応を行います。
「点検項目・方法」について
定期点検の検査項目は以下の3つです。
- 異常音の有無についての検査
- 異常音、振動、外観の損傷、摩耗、腐食、さび、その他の劣化、油漏れ・にじみ、熱交換器への霜の付着の有無についての目視の検査
- 冷媒の漏えい有無についての直接法・間接法、またはこれらを組み合わせた方法の検査
■直接法とは(道具を用いた検査)
引用:https://www.env.go.jp/content/900448653.pdf
■間接法とは(チェックシートを用いた検査)
引用:https://www.env.go.jp/content/900448653.pdf
「点検頻度」について
定期点検の点検頻度は、「エアコンディショナーか冷凍・冷蔵機器か」に加え、圧縮機に用いられる電動機や内燃機関の定格出力によって変わります。
圧縮機に用いられる電動機や内燃機関の定格出力 |
点検頻度 |
|
エアコン |
7.5kW以上50kW未満 |
3年に1回以上 |
50kW以上 |
1年に1回以上 |
|
冷凍・冷蔵機器 |
7.5kW以上 |
1年に1回以上 |
・定格出力の見方は以下
引用:https://www.env.go.jp/content/900448653.pdf
なお、長期間運転していない第一種特定製品については定期点検は行わなくても良いとされていますが、再稼働時には事前に点検を実施することが推奨されています。
点検記録簿の記録事項・保管の仕方
定期点検で記録しなければならない内容は以下のとおりです。
- 管理者の氏名または名称
- 第一種特定製品の所在等
- フロンの初期充てん量と、その種類
- 定期点検の実施有無
- 定期点検の実施日
- 定期点検を行った者の氏名
- 定期点検の内容と結果
定められた記録事項を満たせば、どの様式でも問題ありません。 定期点検の点検記録簿の保管の仕方については、簡易点検と同様の規定が適用されます。
- 紙または電磁的記録で保存すること
- 機器を破棄してから3年間保管すること
- 第一種特定製品整備者または第一種フロン類充てん回収業者から、点検記録簿の求めがあった際に速やかに開示できる場所に保存すること
- 法第87条におけるフロン類以外の冷媒が充てんされている機器の整備等を行う際には、整備者等に対して現に充てんされている冷媒の説明または分かりやすく表示すること
- 機器を他者に売却する場合は、当該機器の点検記録簿または写しを引き渡すこと(無償で譲渡する場合:引き渡すことが望ましい)
「罰則」について
7.5kWの第一種特定製品の管理者は、点検が基準に照らして著しく不十分であると判断されると、管轄の都道府県知事による勧告→公表→命令等の措置を経て、従わない場合に50万円以下の罰則が科されます。
フロン排出抑制法の罰則について詳しくは以下の記事をご参照ください。
まとめ
フロン排出抑制法における点検義務は、地球温暖化防止を目的としたものです。
簡易点検は全ての第一種特定製品管理者に3か月に1回以上の実施が義務付けられ、定期点検は7.5kW以上の機器を所有する管理者に対して追加で実施が必要となります。 両点検とも適切な記録保存が求められ、法令違反には罰則が科されるため、確実な遵守が必要です。
常時監視システムを導入すれば、従来の目視点検が不要になり、点検工数の削減と管理効率の向上が期待できます。