設備保全の現場では、人材不足やベテラン技術者への依存、突発的な設備故障への対応など、多くの課題が顕在化しています。こうした状況のなかで注目されているのが「設備保全DX」です。
設備保全DXとは、IoTやAI、クラウドなどのデジタル技術を活用し、設備データを可視化・分析することで、保全業務の効率化や予知保全の実現を目指す取り組みを指します。
本記事では、設備保全DXの基本的な考え方や、具体的な推進例、取り組む際のポイントなどについて、詳しく解説します。
設備保全DXとは
設備保全DXとは、データやデジタル技術を活用して設備保全業務やビジネスモデルそのものを変革する取り組みのことです。
単に紙の台帳をデジタル化するだけにとどまらず、蓄積したデータをもとに保全の判断や手順を根本から見直すことが求められます。
ここでは、設備保全DXへの理解を深めるために、以下の2つのポイントを取り上げて解説します。
- 「設備保全」と「DX」の基本
- 従来の設備保全との違い
「設備保全」と「DX」の基本
「設備保全」とは、設備を安定的に稼働させるための一連の活動を指します。対象は業種によって異なり、製造業では生産設備や冷蔵・冷凍設備、オフィスや商業施設ではエレベーターや空調設備などが該当します。事業活動を支えるあらゆる設備が対象です。
設備を適切に管理できなければ、品質の低下や突発的な故障による生産停止が発生します。その結果、納期遅延や売上減少など、事業全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。こうしたリスクを防ぐために、定期点検や部品交換を通じて設備を最適な状態に維持するのが設備保全です。
一方、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、データやデジタル技術(IoT・クラウド・AIなど)を活用し、業務プロセスやビジネスモデルそのものを変革する取り組みです。
紙の設備台帳をクラウドに移行するだけでは「デジタル化」の域を出ません。DXでは、蓄積された点検・修理履歴を分析し、故障の傾向を把握したり、判断基準を標準化したりすることで、ベテランに依存しない保全体制を構築します。単なるIT導入ではなく、保全の仕組みそのものを変革する点がDXの本質です。
従来の設備保全との違い
設備保全DXは、従来の設備保全とどのように異なるのでしょうか。それぞれの特徴を比較しながら、DXによって何が変わるのかを見ていきましょう。
従来の設備保全
これまでの設備保全は、「壊れたら修理する」という事後対応や、ベテランの「そろそろ不具合が出そうだ」という、勘や経験に頼った判断、あらかじめ定めた計画に基づく点検が中心でした。
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◇従来の設備保全1:事後対応 事後対応は故障が発生するまでコストがかからないように思えますが、設備が実際に故障してから対応するため、生産停止や品質低下、納期遅延、顧客からの信頼低下、売上への影響といった事業全体に大きなリスクをもたらす可能性があります。 ◇従来の設備保全2:属人化 特定の人に保全業務を依存すると、ベテランの不在や引退によって知識や技術が継承されず、トラブル発生時の解決が遅れる恐れがあります。 ◇従来の設備保全3:点検の柔軟性 計画に基づいた定期点検は安定稼働に欠かせない一方で、点検と点検の間に発生した異常には気づきにくいという側面があります。 安定した稼働を維持しようとすると点検頻度を高める必要があり、その分、人的負担が増加するという課題も抱えています。 |
設備保全DX
設備保全DXでは、センサーやAI、データを活用して設備の状態を常時把握し、異常な音や温度、振動といった変化を機械が検知します。
過去の故障や修理履歴も含めてデータとして蓄積・活用することで、特定の人の経験に頼らず、設備の状態に応じた適切な判断や対応が可能です。
事後対応や画一的な点検に頼ることなく、「必要なときに必要な保全を行う」という考え方が、従来の設備保全との大きな違いです。
設備保全DXの推進例
設備保全の活動は、大きく以下の3つに分類されます。
- 事後保全
- 予防保全
- 予知保全
それぞれの活動においてDXを推進することで、保全業務の質と効率が高まります。
【事後保全】
事後保全とは、設備の不具合や故障が起きてから修理や交換を行う保全活動です。例えば、「空調を運転させても風が出てこないため、その原因を特定して修理を行い復旧させる」といった対応が該当します。
突発的な故障は事業活動に影響を及ぼすため、できる限り予防保全や予知保全を行うことが望まれますが、事後保全によって得られる故障内容や修理方法、対応に要した時間といった情報は、今後の保全活動にとって貴重なデータとなります。
DX推進によってこうした対応履歴をデータとして蓄積・共有できるようにすれば、過去の事例をすぐに参照でき、迅速かつ適切な対応が可能になるのです。
【予防保全】
予防保全とは、設備が故障する前にあらかじめ点検や部品交換を行い、トラブルを未然に防ぐ保全活動です。不具合や故障の有無にかかわらず計画的に点検を実施し、異常が確認された際には修理や交換を行います。
通常、点検は頻度を増やすほど人的コストがかかります。一方、安定した設備稼働には継続的な点検が欠かせません。そこで、メーカー推奨のメンテナンス周期や点検記録をデジタル化し分析することで、データに基づいて点検のタイミングを見極められるようになります。
また、システムを活用して点検業務の一部を代替する方法も有効です。
【予知保全】
予知保全とは、設備が故障する前の兆候を捉え、予防保全へとつなげていく保全活動です。
例えば、振動センサーを導入した場合、通常運転時の振動データが蓄積されることで「いつもと違う振動」を検知できるようになるでしょう。センサーやAIなどを活用すれば設備を常時監視できるため、人的な点検に依存せず、異常の兆候を早い段階で捉えられます。
また、センサーやAIに限らず、日々蓄積される運転データを分析することで兆候を見つける方法も有効です。「Panasonic HVAC CLOUD」では、異常の発生を自動で検知して管理者へ通知する機能を搭載しています。
空調の消費電力量が蓄積・グラフ化されるため、不自然な消費電力の変化から不具合の可能性に気づくこともできるでしょう。
設備保全のDX化で解決できる課題
設備保全の現場には、人材不足や属人化、突発的な設備停止など、多くの課題が存在します。これらの課題は、DX化によって大きく改善できる可能性を秘めています。
ここでは、設備保全のDX化によって解決できる課題のうち、代表的なものを5つ見ていきましょう。
設備保全を支える人材の不足
設備保全の現場では、他の業種と同様、少子高齢化にともなう人手不足が深刻です。
設備保全の現場では、建物内や複数拠点に点在する設備を巡回しながら点検や修理を行う必要があります。現地での確認作業に加えて点検記録の記入や報告といった業務も発生するため、多くの時間と労力を要します。
限られた人数で多くの設備を管理する状況では、一人ひとりの業務負担が大きくなりやすく、突発的なトラブル対応が重なることで長時間労働につながるケースも少なくありません。
このような働き方が常態化すると、ワークライフバランスを重視する現代においては人材確保や定着の面で不利な要素となり、さらなる人手不足を招く恐れがあります。
設備保全をDX化し、センサーなどを活用して点検の頻度を減らしたり、点検記録をデジタル化して入力や共有の手間を省いたりすることで、現場の負担を大きく軽減でき、少人数でも無理のない体制の構築が可能になるのです。
属人化しがちなノウハウの技術継承
設備保全は、異常の兆候を見極める判断や適切な対応方法など、ベテランの知識や経験に依存しやすい傾向にあります。
人材確保の面でも、設備保全には専門的な知識や実務経験が求められるため、即戦力となる人材を新たに確保することは容易ではありません。育成を進めようにも、ベテランが感覚的に身につけてきたノウハウをそのまま伝えることは難しいでしょう。
一方で、技術の進歩によって設備のオートメーション化が進む現在、設備保全の重要性はますます高まっており、設備そのものだけでなく、それを管理する体制や方法も進化させる必要があります。
保全業務をDX化し、マニュアルや点検手順をデジタル化して必要なときにすぐ参照できるようにしたり、過去の点検・修理履歴や対応内容をデータとして蓄積・共有したりすれば、個人に依存しない技術継承が実現可能です。
突発的な設備停止が事業活動に与えるリスク
設備の不具合に気づかないまま運転を続けると、結果として突発的な故障により運転が停止するリスクが高まります。
製造設備であれば生産ラインが止まり、計画していた生産量を確保できなくなるほか、納期の遅れや取引先からの信頼低下につながる恐れがあるでしょう。空調設備が停止すれば、従業員の集中力に影響して生産性の低下を招いたり、商品の品質を維持できず廃棄につながったりすることも考えられます。また、ベテラン担当者が不在のタイミングでトラブルが発生すると、原因の特定や復旧対応に時間を要する事態にもなりかねません。
DX化によって異常の兆候を早期発見できれば、突発的な設備停止そのものを未然に防ぐことが可能になります。点検履歴や修理履歴といったデータが蓄積されていれば、万が一停止が発生しても、過去の事例と現在の状況を照らし合わせて迅速かつ的確な復旧対応につなげられるでしょう。
対応の遅れが招く保全コストの増大
設備が故障してから修理や交換を行うという対応は、一見すると無駄な点検や部品交換を省けるため、コストを抑えられるように思えるかもしれません。
しかし、不具合の兆候を見逃したまま対応が遅れると、軽微な調整や部品交換で済んだはずのトラブルが、設備全体の交換や大規模な修理へと発展してしまうケースもあります。突発的な故障により、緊急対応のための人員手配や外部業者への依頼が必要になり、通常よりも高額な修理費用が発生することも少なくありません。
このように、対応の遅れは保全コストを結果的に押し上げるため、設備の状態を常時把握し、異常の兆候を早期に検知する仕組みが重要です。
従業員の安全を脅かすリスク
設備保全により設備トラブルの発生を未然に防ぐことは、従業員の安全を守ることにもつながります。
例えば、設備の誤作動によるけがや空調の停止による熱中症など、事故や健康被害のリスクを低減できるでしょう。また、設備に異常がなくても、高所作業や高温環境での点検は常に危険を伴います。
センサーなどを活用して点検頻度を減らすことができれば、こうしたリスクの軽減にもつながるのです。
設備保全DXに取り組むうえでのポイント
設備保全DXを成功させるためには、やみくもにツールを導入するのではなく、押さえるべきポイントを理解したうえで段階的に進めることが大切です。
ここでは、設備保全DXに取り組むうえで特に重要な、3つのポイントを解説します。
目的と投資対効果を明確にする
設備保全のDX化は大きなメリットを期待できますが、導入には初期費用や運用コストが発生します。目的が曖昧なまま、やみくもにソリューションを導入すれば、想定外の負担になりかねません。
DX化そのものを目的にするのではなく「DXによって何を解決したいのか」を明確にしたうえで、投資対効果を検討しておくことが大切です。
目的が定まれば、導入すべきソリューションや優先順位は自ずと見えてきます。導入するソリューションによって「どのような工程を削減できるのか」「それによってどのようなコストを削減できるのか」を具体的に検討することが、成功への第一歩となります。
現場ファーストで考える
設備保全DXを定着させるためには、現場の声を最優先に考えることが重要です。
突然の故障の頻度やその影響、コストなど、設備保全の担当者が抱える課題や改善提案、作業時間の実態をヒアリングすることで、現場に即したDXの方向性が見えてきます。操作が複雑な仕組みは運用の継続が難しいため、利用者の声をUIや操作動線に反映させることも欠かせません。
また、現場と経営層の橋渡し役として設備保全DXのリーダーを配置すれば、現場の意見を反映した運用ルールや仕組みづくりが進みやすくなります。
段階的に広げていく
DX化には一定の費用がかかるため、まずは優先度の高い拠点や設備で試験的に導入し、実際の費用対効果や、運用上の課題を確認しましょう。
また、DX化により、現場は従来のやり方を変えることになりますが、徐々に拡大していくことで、負担を最小限に抑えながら浸透させていくことが可能です。小さな成功事例を積み重ねることで、社内の理解や協力も得やすくなります。
まとめ
設備保全DXは、単なるデジタル化ではありません。点検・修理履歴や運用データを蓄積し、IoTやAIを活用して設備の状態を常時見える化することで、保全の判断と手順を根本から変える取り組みです。属人化や人材不足、突発的な設備停止によるコスト増、作業時の安全リスクといった課題を同時に解消できる可能性を秘めています。
導入にあたっては、目的の明確化や現場視点を重視し、小さく始めて徐々に拡大していくことが成功への鍵となるでしょう。
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スケジュール設定 |
曜日ごと・30分単位で「運転のオンオフ」「運転モード」「設定温度」を設定できる機能。設定内容に応じて自動で運転が行われる。 |
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省エネ設定 |
あらかじめ設定した時間帯に空調を自動的に停止させたり、設定温度が変更されても一定時間後に元の温度に戻したりする機能。 |
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警報通知 |
異常の発生を自動で検知して管理者へ通知する機能。設備トラブルの見逃しを防ぐことができる。 |
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※1年間、関東地方の2つの異なる物販店舗(約1,000㎡)の施設で検証。「設定温度自動リターン」機能(一定時間で指定した温度設定に戻る機能)との比較。